SPECIAL

邪馬台国は、本当はどこにあったのか?

are-iina流に考察

邪馬台国の場所をめぐる議論では、「九州か、畿内か」という二つの説が有名ですが、本当にそうなのでしょうか?

邪馬台国は1800年近く前の政権です。まだ見つかっていない遺跡や失われた文献もあるかもしれません。また、残されている文献や記録も、本当の史実を描いたものなのか誰も分かりません。

そこで今回の特集では、筆者の独断と偏見で候補地をいったん広く取り、同じ基準で候補地を探ってみます。

HOW TO READ

5つの視点で、邪馬台国を探す

神話・出土品・文献・交通・防御の5項目で候補地を見ていきます。

01

神話

神話に残る土地の記憶

02

出土品

遺跡・王墓・遺物

03

文献

『魏志倭人伝』などの記録

04

交通

海路・河川・街道

05

防御

山・海・盆地・島

なぜ神話を見るのか?

神話の舞台となった土地には、後に祭祀の場や神社が置かれ、人が集まり、地域の中心へ発展した例があります。神話を史実とは見ませんが、「なぜその土地が記憶されたのか」は手掛かりとして評価します。

CANDIDATE 01

糸島・伊都国周辺

大陸への玄関口。『魏志倭人伝』に名を残す伊都国。

玄界灘から見た糸島半島
玄界灘から見た糸島半島Photo: 厄無し / Yakunashi / Wikimedia Commons
神話△王権神話との直接性は弱め
出土品◎王墓・銅鏡・大陸系文物
文献◎『魏志倭人伝』に伊都国
交通◎玄界灘から半島への海路
防御△海への開放性
神話 △出土品 ◎文献 ◎交通 ◎防御 △

神話 王権神話の中心地として直接描かれる場面は多くありません。

出土品 三雲南小路遺跡、井原鑓溝遺跡、平原遺跡など、強い首長層を示す墓や鏡が知られています。大陸との交流を示す遺物も重要です。

文献 『魏志倭人伝』には伊都国が実名で登場します。使節の往来と関わる重要な国として書かれています。

交通 玄界灘から壱岐、対馬、朝鮮半島へつながる海上ルートを使えます。

防御 海への開放性は高く、外部との接触が多い反面、侵入経路にもなります。

伊都国がこれほどはっきり記録されているのに、邪馬台国とは別の国として書かれている。その点をどう考える?

CANDIDATE 02

筑紫平野・吉野ヶ里周辺

大規模な環壕集落。弥生時代の「クニ」を映す筑紫平野。

吉野ヶ里遺跡
吉野ヶ里遺跡Photo: STA3816 / Wikimedia Commons
神話△主要神話の舞台ではない
出土品◎大規模環壕集落
文献○北部九州との整合
交通○筑紫平野・有明海
防御◎環壕による防御
神話 △出土品 ◎文献 ○交通 ○防御 ◎

神話 吉野ヶ里そのものが王権神話の主要舞台として語られるわけではありません。

出土品 大規模な環壕、建物群、墓域など、強い共同体が存在したことを示す遺構があります。

文献 北部九州は『魏志倭人伝』の世界と接点がありますが、吉野ヶ里という地点を直接示す記述はありません。

交通 筑紫平野と有明海、河川を使った移動が可能で、農業生産にも向きます。

防御 環壕という、防御を意識した都市構造が実際に確認されています。

大規模な「クニ」の姿は見える。では、その中心に女王がいたことを示す材料はある?

CANDIDATE 03

高千穂系エリア

天孫降臨の舞台。王権の始まりを語る神話の地。

高千穂峡
高千穂峡Photo: Takasunrise0921 / Wikimedia Commons
神話◎天孫降臨
出土品△王都級物証は限定的
文献△邪馬台国との直接記録なし
交通△山間部
防御◎山岳地形
神話 ◎出土品 △文献 △交通 △防御 ◎

神話 天照大神の孫・瓊瓊杵尊が地上へ降りた場所として高千穂が語られます。王権の起点を示す神話として存在感があります。

出土品 3世紀の巨大な政治都市や王墓が集中する地域としては、現時点で決め手に欠けます。

文献 高千穂は『古事記』『日本書紀』に登場しますが、その中心は神話部分です。邪馬台国と直接結びつく記録はありません。

交通 山間部が多く、大量の物資や使節を動かす場所としては条件が厳しくなります。

防御 山地に囲まれ、外部から攻め込みにくい地形です。

神話が王権の始まりをここに置いた理由を、どこまで歴史の記憶として読める?

CANDIDATE 04

淡路島

国生み神話の島。瀬戸内海と大阪湾を結ぶ海上交通の要衝。

淡路島
淡路島Photo: NASA / Wikimedia Commons
神話◎国生み神話
出土品○鉄器生産拠点
文献△邪馬台国との直接記録なし
交通◎瀬戸内海・大阪湾・紀伊水道
防御◎島という天然障壁
神話 ◎出土品 ○文献 △交通 ◎防御 ◎

神話 伊邪那岐命と伊邪那美命の国生みで、淡路島は日本列島の始まりに置かれます。

出土品 五斗長垣内遺跡では鉄器生産が行われていました。島が単なる通過地点ではなかったことが分かります。

文献 『古事記』『日本書紀』では神話の舞台として登場しますが、邪馬台国との直接的な記録はありません。

交通 瀬戸内海、大阪湾、紀伊水道の間に位置し、海上移動の結節点になります。

防御 島であるため進入経路は限られます。海上支配を維持できることが前提になります。

神話の最初に置かれ、鉄器生産もあったこの島は、政治的にも重要な場所だった?

CANDIDATE 05

奈良・纒向

3世紀の大規模集落。大和王権へつながる纒向。

巻向山周辺
巻向山周辺Photo: そらみみ / Wikimedia Commons
神話◎神武東征・三輪山
出土品◎3世紀の大規模集落
文献○大和の後世記録
交通○大和川・陸路
防御◎盆地と山地
神話 ◎出土品 ◎文献 ○交通 ○防御 ◎

神話 神武東征の到達点として大和が語られ、三輪山と大物主神など、王権と祭祀に関わる神話が集中します。

出土品 纒向遺跡では大型建物群や水路、各地から運ばれた土器などが確認されています。3世紀の政治中枢を考えるうえで重要な遺跡です。

文献 後世の日本側文献では大和の重要性が明確ですが、『魏志倭人伝』の道程との整合には議論があります。

交通 大和川を通じて大阪湾方面へつながり、周囲の各地域へ抜ける陸路もあります。

防御 盆地を山地が囲み、海岸部より中枢を守りやすい地形です。

海から離れた大和に、なぜ3世紀の大きな政治都市が現れた?

CANDIDATE 06

吉備・岡山平野

瀬戸内海中央の有力勢力。大型墳丘墓と独自の首長文化。

吉備・岡山平野
吉備・岡山平野Photo: Wikimedia Commons / Wikimedia Commons
神話○吉備平定の物語
出土品◎楯築・特殊器台
文献△邪馬台国との直接記録なし
交通◎瀬戸内海中央
防御○内海側の立地
神話 ○出土品 ◎文献 △交通 ◎防御 ○

神話 吉備津彦命など、王権による吉備平定につながる物語が残ります。大和側の神話世界の中でも重要な地域として扱われています。

出土品 楯築遺跡の大型墳丘墓、特殊器台・特殊壺など、独自の強い首長文化が確認されています。

文献 邪馬台国と吉備を直接結ぶ記録は見つかっていません。

交通 瀬戸内海の中央に位置し、九州方面、畿内方面、山陰方面へ動きやすい場所です。

防御 外洋から直接入る地域ではありません。一方、平野部そのものは天然の要害ではありません。

これだけ大きな勢力がありながら、なぜ邪馬台国論では脇役になっている?

CANDIDATE 07

出雲

国譲り神話の中心。大量の青銅器と王墓を残した古代出雲。

荒神谷遺跡
荒神谷遺跡Photo: Reggaeman / Wikimedia Commons
神話◎大国主・国譲り
出土品◎大量青銅器・王墓
文献◎『出雲国風土記』
交通○日本海航路
防御○海と山地
神話 ◎出土品 ◎文献 ◎交通 ○防御 ○

神話 大国主命と国譲り。天孫側とは別の大きな支配世界があったことを思わせる物語です。

出土品 荒神谷遺跡の銅剣、加茂岩倉遺跡の銅鐸、西谷墳墓群など、祭祀と首長層の双方に強い痕跡があります。

文献 『出雲国風土記』が残り、古代出雲の地名や伝承を伝えています。一方、『魏志倭人伝』との直接的な接点はありません。

交通 日本海航路を使い、九州、朝鮮半島方面、北陸方面へつながります。

防御 海と山地に囲まれ、独自勢力を維持しやすい地形です。

国譲り神話は、かつて存在した大きな政治勢力の記憶を残している?

CANDIDATE 08

近江・琵琶湖周辺

琵琶湖水運の結節点。畿内・北陸・東海をつなぐ内陸交通の要衝。

琵琶湖
琵琶湖Photo: Helito / Wikimedia Commons
神話△王権起源神話では脇役
出土品○弥生・古墳期遺跡
文献△邪馬台国との直接記録なし
交通◎琵琶湖水運
防御◎湖と山地
神話 △出土品 ○文献 △交通 ◎防御 ◎

神話 王権の始まりを語る神話では、中心舞台になりにくい地域です。

出土品 弥生時代から古墳時代にかけて多くの遺跡がありますが、3世紀の列島中枢を示す一点としては決め手が弱いところがあります。

文献 邪馬台国と近江を直接結ぶ記録は確認されていません。

交通 琵琶湖の水運を使え、北陸、東海、畿内へ抜ける交通路を持ちます。

防御 湖と山地に囲まれ、内陸の拠点として守りやすい地形です。

首都を置く条件は整っている。では、3世紀の政治中枢だった証拠はどこまである?

COMPARISON

同じ5項目で並べると、見え方が変わる

ここまで見てきた8候補を、一度同じ表に並べます。

候補地神話出土品文献交通防御
糸島・伊都国△◎◎◎△
筑紫平野・吉野ヶ里△◎○○◎
高千穂系◎△△△◎
淡路島◎○△◎◎
奈良・纒向◎◎○○◎
吉備・岡山○◎△◎○
出雲◎◎◎○○
近江・琵琶湖△○△◎◎

3 MODELS

視点を変えると順位が変わる

同じ評価表でも、視点を変えれば結論が変わります。ここでは三つの視点で考察します。

重要なのは「誰が1位か」だけではありません。視点を変えても上位に残る場所と、ある視点でだけ急浮上する場所。その違いを見ると、候補地の性格がはっきりします。

証拠型

出土品・文献中心

  1. 出雲97pt
  2. 糸島・伊都国94pt
  3. 奈良・纒向86.5pt
  4. 筑紫平野・吉野ヶ里83.5pt
  5. 吉備・岡山73pt
  6. 淡路島62.5pt
  7. 近江・琵琶湖59.5pt
  8. 高千穂系46pt

地政学型

交通・防御中心

  1. 淡路島91pt
  2. 奈良・纒向86.5pt
  3. 近江・琵琶湖85pt
  4. 筑紫平野・吉野ヶ里80.5pt
  5. 吉備・岡山80.5pt
  6. 出雲79pt
  7. 糸島・伊都国73pt
  8. 高千穂系67pt

神話型

神話中心

  1. 出雲92.5pt
  2. 奈良・纒向91pt
  3. 淡路島88pt
  4. 高千穂系76pt
  5. 吉備・岡山73pt
  6. 糸島・伊都国64pt
  7. 筑紫平野・吉野ヶ里61pt
  8. 近江・琵琶湖58pt

※ ◎=10、○=7、△=4、×=1として仮点数化。配点は3つの視点ごとに変更。

ARE-IINA VIEW

are-iinaの説

邪馬台国は、奈良・纒向にあったと考えます。

今回の8候補を3つの視点で見比べると、奈良・纒向は証拠型、地政学型、神話型のどれでも上位に残りました。

3世紀には大規模な集落があり、その後の大和王権にもつながっていく。周囲を山に囲まれ、守りやすい。神話の中でも、大和は王権の中心として繰り返し登場します。

但し、

魏と外交していた国の都が、なぜ海のない奈良にあるのか?

ここで、都と外国への玄関口は同じ場所ではなく、別だったのでは? と考えました。

政治・祭祀の中心奈良・纒向
大陸外交の玄関口糸島・伊都国周辺

are-iinaでは、政治・祭祀の中心は奈良・纒向、大陸外交の玄関口は糸島・伊都国周辺だったと考えます。

糸島・伊都国は『魏志倭人伝』にも登場し、朝鮮半島や大陸との往来には都合のいい場所です。

魏から来た使節や大陸から入ってきた品々が、まず北部九州に入り、そこから倭国内へ運ばれていた。

そう考えると、北部九州に大陸との交流の痕跡が多く残り、奈良に大きな政治拠点があることも両立します。

今回の比較でもうひとつ目立ったのが、出雲でした。

大量の青銅器。王墓。そして国譲り神話。

出雲を邪馬台国と見るより、邪馬台国とは別に、かなり大きな勢力が存在していたと考えるのが妥当です。

卑弥呼の国とは別に、出雲にも大きな勢力があった。

そう考えると、国譲り神話も単なる神話ではなく、大きな勢力同士の関係を後世に残した物語だったのでは? と見えてきます。

あなたの説は?